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名古屋地方裁判所 昭和31年(行モ)4号 決定 1956年9月25日

申立人 鷲野得三郎 外二名

被申立人 立田輪中悪水土地改良区

主文

被申立人が昭和三十一年八月十日申立人等に対し、別紙目録記載第一乃至第三の各不動産につきそれぞれなした各差押処分は本案判決の確定に至るまでその各効力を停止する。

本件申立費用は被申立人の負担とする。

理由

申立人等の申立の要旨は、被申立人は土地改良事業として悪水排除を行うため立田悪水路及び筏川水路の施設管理、排水機及びこれに附帯する工作物の設置、維持及び管理を目的とし、土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)に基き昭和二十七年八月二日愛知県知事の認可を得て設立され、申立人等はこれが組合員となつているものであるが、被申立人は申立人鷲野得三郎に対し昭和二十六年度経常費、改良事業費、組合費、同二十七年度第一期及び第二期組合費等合計金六千二百八十七円の滞納処分とし別紙目録記載第一の不動産につき、申立人青山甚内に対し右同様諸経費等合計金三千三百四十八円の滞納処分とし別紙目録記載第二の不動産につき、申立人鷲野重光に対し、右同様諸経費等合計金四千九百七十七円の滞納処分とし別紙目録記載第三の不動産につきそれぞれ差押処分をなした。然し右各差押処分は、第一に被告の設立行為中土地改良法第五条による適法の公告を経て設立されたものでなく、第二に被申立改良区内は前記事業目的の客体たるべき田及び畑以外の宅地、墓地山林、原野、社寺境内を問わずすべてこれを包含する違法が存するのみならず、土地改良法第三十六条第二項によれば、組合員の経費の負担については、当該土地が受ける利益を勘案することを要し、均一又は等級別に賦課しえないのに被申立人定款第十三条において、排水機維持管理費及び改良事業費に付ては等級により、経常費については均一に賦課する旨定める無効の定款を有する等、本来被申立人の設立自体を無効、もしくは取消すべき瑕疵を有するが、第三にかりに右設立自体に瑕疵がないものとしても右第二に述べた如く、被申立人は申立人等に対し設立当初より本件経費の賦課処分をなしたことなく、またかりに関係町村に委嘱して賦課処分をなしたとしても、右町村のなす賦課処分は法律上何等の権限なくしてなされた無効のものであるのみならず、又賦課の定め方についても前述の如く何等組合員の受ける利益を勘案することなく均一にこれを賦課処分しているので、かゝる賦課処分は本来無効のものというべく、かゝる無効の賦課処分を前提としてなされた被申立人の申立人等に対する本件各差押処分は当然無効のものである。以上何れにしても被申立人の申立人等に対してなした各差押処分はその前提においてすべて無効であるから無効の処分というべく、申立人等は被申立人に対しこれが無効確認の訴を提起したのであるが、本件各差押は全く僅少なる滞納金額のため別紙目録記載の高価な不動産を処分の対象とするものであり、このまゝ時日を経過し公売せられるときは申立人等に回復することのできない損害を及ぼすことは必至であるので、こゝに右滞納処分の効力の停止を求めるため本申立に及んだというのである。

当裁判所は被申立人の意見を求めたうえ、審理したところ、申立人等の本件申立は一応理由があるものと認められるので、これが滞納処分の効力を停止することにし、申立費用について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 西川力一 越川純吉 山田義光)

(別紙省略)

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